アンセル・エルゴート「ヤクザ」に挑む

HBO Max via AP

 HBO MaxとWOWOWの日米共同制作によるドラマシリーズ「TOKYO VICE」は、警視庁担当になった新米記者の奮闘記という一見お決まりのストーリーだ。しかし、1990年代の東京というきらびやかな大都会のアンダーグラウンドを舞台にした異色作になっている。

 主人公のアメリカ人青年ジェイク役は、スピルバーグ監督のウエスト・サイド・ストーリーで主演に抜擢されたアンセル・エルゴート。流暢な日本語を披露するほか、取材から記事執筆にいたる記者のノウハウまでリアルを徹底追及し、役に没頭している。

 アンセルはAP通信のインタビューのなかで「本当にクールだった。典型的な登場人物ではなく、実在するかのように思えるものでないといけない」と述べている。

 2022年4月24日に放送を開始した本シリーズでは、往年の日本映画を思わせる「ヤクザ」の世界、そして大手企業のビジネスマンと裏社会の男たちが肩を並べる華やかな夜の街でストーリーが展開していく。

 アンセルは「ヤクザとしてのキャラクターと、家族の一員としての姿を見てほしい。映画『ゴッドファーザー』のように、悪人でありながら、家庭での姿や家族としての姿も描かれています」と語る。

 製作チームや出演者は「重要なのは、異なる言語と文化の間をスムーズに行ったり来たりすること。世界中の誰が見てもリアルに映るよう、気を配りながら作品を作り上げました」と話す。

 敏腕刑事役で共演した渡辺謙は日本語アドバイザーも務め、「外国語で演じる前に、まず母国語でセリフを覚えるように」とアドバイスしたという。

 渡辺自身、トム・クルーズと共演した「ラスト サムライ」を皮切りに、ハリウッドでもこの方法で演技をしてきた。TOKYO VICEで彼が演じるのは、家族を愛する夫でありながら、犯罪と闘うタフな男。その役柄をより深く掘り下げるため、「警察官について研究した」という。

 TOKYO VICEの原作は、長年日本に滞在し大手新聞社に勤務していたジェイク・アデルスタインのノンフィクション。そのほとんどが、彼の実体験によるものだ。
 
 同シリーズの脚本家で、トニー賞を受賞したJ.T.ロジャーズは「観客は、いつも驚くべき利害関係をもつ人々が登場する、ダイナミックな物語を製作者に求めます。ですが、どうしたら違う角度からアプローチできるのか、考えました。観客に面白いと思ってもらえるようなダイナミズムが起きています」と語る。彼とアデルスタインとは、10代だったミズーリ州時代からの友人だ。

 東京で撮影された映像は、世界に名だたる渋谷のスクランブル交差点を一糸乱れぬ流れで渡る群衆から、ヒエラルキー重視がヤクザ社会と通ずる日本の「サラリーマン」が行き交う官庁街まで、象徴的なシーンであふれている。

 製作総指揮のアラン・ポールは「これらの世界はすべて、欧米の観点では想像もつかない方法で、紐づいています。ジェイクが次第にそのつながりに気づいていく過程をみるのも、この物語の見どころです」と自信を見せる。

 エミー賞とゴールデングローブ賞をダブル受賞したポールは、じつは日本と縁が深い。彼のキャリアは日本ではじまり、大学では日本文学の学位も取得している。TOKYO VICEには菊地凛子やレイチェル・ケラーなど、ほかにも「多国籍」なキャストが参加している。

 アンセルと渡辺の美声を堪能できるカラオケシーンがあるのか、それはまだわからない。我々観客は期待するしかないが、主演の2人は互いの歌唱力を称賛している。アンセルは「ウエスト・サイド・ストーリー」に、渡辺はブロードウェイの「王様と私」に出演している。

「謙さんの歌に圧倒されました」と語るアンセルの日本語もまた、完璧だった。

By YURI KAGEYAMA Associated Press
Translated by isshi via Conyac

Text by NewLuxe 編集部