レビュー:「完璧主義の危険性」フィンランド発のイノセントホラー映画『ハッチング―孵化―』
『プチママン』が描く「母、娘、共感」にやや食傷気味という方にとっては、フィンランドの新鋭女性監督ハンナ・ベルイホルムがメガホンをとる『ハッチング―孵化―』はある意味、解毒剤の効果があるかもしれない。これは完璧主義への批判をテーマにした、身も凍るようなボディ・ホラーだ。
主人公は、12歳の少女ティンヤ(シーリ・ソラリンナ)。ブロンドのストレートヘア、そしてややとがった顔が若き日のグウィネス・パルトロウを思わせる彼女は、北欧の一見理想的な家庭で暮らしている。新体操選手である彼女はレオタードとタイツをまとい、普段は白いレースのついたおとなしいドレスに身を包む。天使のような歌声と立ち振る舞い。誰もがうらやむような完璧で幸せな姿だ。
しかしそれは、『Lovely Everyday Life』という人気ブログを展開する完璧主義者の母親(ソフィア・ヘイッキラ)が作り出した姿であり、ティンヤ自身もまだそれをよく理解していない。しかし、インスタグラムのインフルエンサーをフォローしたことがある方は、このタイプの人間を見たことがあるだろう。はしゃぐ姿に花冠、笑顔、パステルカラー……その裏に恐怖や不安といった人間のリアルな感情が透けて見え、親近感すらおぼえる。しかしそれらもまた、作りものだ。「本物らしさ」は目標であり、自然に生まれるものではない。
母親から真に愛されていない、と感じるティンヤは母を喜ばせようと必死になり、次の新体操の大会で好成績を残そうと極限状態まで自身を追い込んでしまう。彼女の手には文字通りあざや切り傷もあるが、本作の最も陰湿な部分、そしてボディ・ホラーや「生き物」としての核となるのは内面の恐ろしさだ。あらかじめ言っておくが、『ハッチング―孵化―』は摂食障害の経験がある人にとっては、トリガーとなり得る作品なので注意してもらいたい。
摂食障害を扱った映画はすべてボディ・ホラーとも言えるが、本作はそのなかでも独創的で極端な展開を見せる。ティンヤは森の中で奇妙な卵を見つけ、それを家族に内緒で孵化させる。そして生まれたクリーチャー(グスタフ・ホーゲンがデザイン)が家族の真の姿を暴き出していくことになる。『E.T.』が『ブラック・スワン』に出会ったと思えば、この作品の奇妙でグロテスクな旅を理解できるはずだ。
このクリーチャーは当初、変わった鳥のようで、『ネバーエンディング・ストーリー』や『ラビリンス』といった80年代の家族向けファンタジーを彷彿とさせる。しかし、この生き物もまた「百聞は一見に如かず」の不穏な変貌を遂げることになる。しかし、ティンヤはその存在を恥じながらも、育てる責任を感じている。「私が孵化させたの」と何度も繰り返すのだ。
この物語は「最も繊細な映画」とまでは言えないかもしれないが、それでも完璧主義者、とくに思春期の少女が抱く「美しい外見に潜む醜さ、邪悪さ」への歯がゆい恐怖を突き付ける秀作だ。しかし、抑圧は醜悪な結末をもたらす。ティンヤは母親の愛人(レイノ・ノルディン)と向き合うことになるが、残念ながらそれも遅すぎた。
ベルイホルムのデビュー作である『ハッチング―孵化―』、その衝撃的な結末で「カルト的名作」となるかもしれない。
本作は2022年4月15日より公開。年齢制限はないものの、強烈でグロテスクな映像とテーマは大人向け。上映時間は86分。
By LINDSEY BAHR AP Film Writer
Translated by isshi via Conyac