ルイ・ヴィトンの2023春夏メンズコレクションで見た、故デザイナーの魂の息吹
|
|
昨年11月、ルイ・ヴィトンのクリエイティブディレクターだったヴァージル・アブロー氏が41歳の若さでこの世を去った。しかし、パリ・ファッションウィーク2023でヴィトンが魅せた新作メンズウェアコレクションは素晴らしくエネルギッシュで、彼の魂がいまなお宿っていることを物語っていた。
ルーブル美術館の中庭に設置された会場のテーマは「遊び場」。黄色いレンガのランウェイでは黒人のマーチングバンドが熱演し、ラッパーのケンドリック・ラマーは、2018年からの3年間、ヴィトンのメンズウェアデザイナーを務めた米ファッション界の巨匠に捧げる頌歌をライブ演奏した。
息が詰まるような熱気にあふれたヴィトンのショーを” Long live Virgil ……How many miles away“と語るラマー氏のラップが盛り上げる。ルーブル美術館で最も古い中庭には、鮮やかなイエローのランウェイが張り巡らされ、「オズの魔法使い」のような世界観とアブロー氏のデザインに共通する「子供時代へのこだわり」を彷彿とさせる。フロリダA&M大学のバンドメンバー数人を含む、カラフルな衣装のマーチングバンドとダンスチームもショーのはじまりと最後をにぎやかに彩った。
前回までのショーはアブロー氏の作品をベースにしており、彼以外のデザイナーが手がけたのは今回の春夏コレクションが初めてだ。24日に披露されたコレクションは、ヴィトンのスタジオが彼の精神を受け継いで構想したもの。デザイナーの美学がヴィトンで継承されることは稀であり、彼がいかに影響力のある人物であったかがよくわかる。
オマール・シーやジェシカ・ビール、ジャスティン・ティンバーレイク、ジョエル・エドガートン、ナオミ・キャンベルといったスターたちもまた、彼が残した財産がいかに魅力的であるか、を伝えている。
かつてのデザイナーのスタイルを、スタジオがオリジナリティをもって再現するのは、並大抵のことではない。しかし、24日のスタジオショーはまさにそれを体現していた—— 裾がジグザグにカットされたシャツ、3Dの紙飛行機がいくつも貼りついたスーツ、この世のものと思えないほど細長いシルエットなど。
だまし絵のプリントを施した上品なテーラードジャケットは、古き良き時代のラグジュアリー感にあふれ、「アブロー氏のデザインを凌駕しているのではないか」と何度も感じさせた。
キム・ジョーンズ氏時代の上質なラグジュアリー感と、2018年以降の遊び心あるスタイルとの間に、慎重に一線を引いたことがわかる。
ディスプレイの強みは、素晴らしいデザインの力によるところが大きい。たとえば、黒のダブルブレストジャケットだ。合わせ目がV字になるように仕立てられ、そのシルエットはまさにヴィトンのロゴを連想させる。
ルイ・ヴィトンのデザインスタジオは、「船頭多くして船山に上る」というトレンドにいい意味で逆行したのだ。
By THOMAS ADAMSON AP Fashion Writer
Translated by isshi via Conyac