トム ブラウンによる「テディ・トーク」 おもちゃをテーマにした遊び心いっぱいのショーを開催

Charles Sykes / Invision / AP

 500人の観客が整然と並んで座っている。服装について事前に案内があったに違いない。全員がトム ブラウンのクラシックなグレーのスーツを完璧に着こなしている。

 そして、皆とても静かである。4月28日の夜に開かれたトム ブラウンのこのショーが特別な機会であることを知っているのだろうか。通常はパリで行われているショーであるが、5月2日からのメットガラの時期に合わせ、今回はニューヨークで開催された。もしくは、じつは皆が動物のぬいぐるみであるということも理由かもしれない。

 正式にいうと、彼らはテディベアだ。力の湧いてくるような「テディ・トーク」を聴くために小さな椅子に並んで座っている。

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 トム・ブラウンによるこの華やかな祭典は、ランウェイを歩くショーというよりも、演劇やパフォーマンスのワンシーンを切り取ったかのような演出が多く盛り込まれており、いつになく遊び心いっぱいの内容であった。アメリカで最も成功したデザイナーの1人であり、素晴らしいエンターテイナーでもあるトム・ブラウンは語り手を通して、テディ・ベアと(大きいほうの椅子に座る)人間の観客に対し、本当の自分を見つけることについて伝えようとしていた。私たちにはもっとオーバーで型破りな、けれども併せ持つ価値のある「トイである一面」があると語っている。

 この高尚なコンセプトはいかにしてファッションと結びついたのだろうか。幸いなことにその答えは、創造的な技術を活かしたアクセサリーに示されている。トイストアをテーマに掲げた今回のショーでは、色鮮やかなシルクの飾りやプリーツを多用した、クラシックなグレーのスーツのバリエーションが豊富である。ハンドバッグやフットウェアは想像力に富むものであり、アルファベットブロックをモチーフにしたバッグや厚底のプラットフォームシューズ、また愛犬に着想を得たハンドバッグ「ヘクター」は、ポニーなど子供部屋にありそうな動物にまでデザインの種類を広げる。

 マンハッタン最西部に位置する広々とした劇場で開催されたショーは、架空のショップへの大きな扉が開かれるところからはじまった。煙突のように高さのあるツイードの帽子をかぶった買い物客が数人、どことなく19世紀の雰囲気を漂わせながら入ってきた。あるグループは3人でひとつの「ヘクター」バッグを携えていた。長尺のこのバッグには、それぞれの持ち手が3ヶ所についている。

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「ニューヨーク、そこは自分自身を見つけるために来るところ。生涯をかけての探求、生涯をかけて答えを求めること、(中略)ようやく完全に解き明かされました」と、ナレーションが流れる。「テディ・トーク」の幕開けである。

 語り手である「ヘッドベア」は、トム ブラウンを象徴するフランネルを使ったグレーのショートパンツスーツを着こなしている。身につけたロングハットはテディベアをモチーフにしたものであり、クマのようなもこもこした素材のグローブをつけ、プラットフォームブーツを履いている。ナレーターを通して、いまではいなくなってしまった大好きなニューヨーカーについてテディ・ベアで満席の観客に向かって語ると、「本当の自分を見つけるために」ニューヨーカーたちが来店した。

 クラシックなスタイルに赤や白、青、そして金や緑などカラフルな装飾が用いられ、さまざまなバリエーションのツイードやフランネルを粋に着こなした男女の大人たち25人が最初に登場した。ヘアスタイルは、植木の刈り込みのような印象的なデザインに仕上げられ、現代彫刻が頭に乗せられているかのようだ。そして、ファンタジー部門がその後に続く。後半に登場する25人は、前半に登場した25人の「トイである部分」を映し出したものだ。

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 この人間のようなトイにはドット模様のメイクアップが施され、それぞれの特徴が強調されて描かれている。モデルたちが表現するトイは、バネの玩具や古風な色合いのアルファベットブロック、びっくり箱など懐かしいものばかりだ。それぞれの「大人」である部分が誇張されて表現されているが、なかには文字通り、ファンタスティックな大きさにまで膨らんでいるものもある。その独創性はとくにアクセサリーにおいて顕著であり、そのなかでもアルファベットブロックのシューズが目を惹きつける。ブロックが実際に積み重なったシューズは、男性よりも女性モデルのほうがうまく履きこなせていたと言わざるを得ない。

Charles Sykes / Invision / AP

 観客席の最前列には、トム ブラウンのチェック柄スーツを着た、グラミー賞を受賞したばかりのジョン・バティステや、クリーム色のショートパンツのセットアップ姿の俳優兼ミュージシャン、レスリー・オドム・Jrなどの姿が見られた。主催するメットガラを3日後に控えたヴォーグ誌のアナ・ウィンターは、メトロポリタン美術館コスチューム・インスティチュートの責任者であるアンドリュー・ボルトンと並んで座っていた。メットガラとともに開催される展覧会「イン・アメリカ:ファッションのアンソロジー(In America: An Anthology of Fashion)」のキュレーターを務めるボルトンは、トム・ブラウンの生涯のパートナーでもある。

 ファッションにまつわる物語の見どころは、大人のニューヨーカーがトイである自分と「出会う」シーンだ。ペアになって再登場した双方が顔を見合わせて話をし、笑い、微笑み合った。
 
 ランウェイ上で笑ったり話をしたりするモデルたち……これが最も独創的な部分であったかもしれない。「本当の自分を見つけること。ユニーク。本物。自信をもつこと。いつもありのままの自分でいてください」というナレーションでショーの幕は閉じた。

By JOCELYN NOVECK AP National Writer
Translated by Mana Ishizuki

Text by NewLuxe 編集部